イラストやデザインに興味があるという方なら、”トレース“や”トレス”という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
トレースは、絵や写真などを別の紙に写し取る技法で、イラストの基本練習や、作業を効率化する際などに役立ちます。
そんな便利なトレースですが、その使い方には、いくつかの気をつけたいポイントがあります。
今回の記事では、イラスト初心者の方に向けて、トレスのやりかたや注意点などについてご紹介していきます。
「トレース」「トレス」とは?
イラスト制作時の「トレース」または「トレス」とは、元となるイラストや写真の上に薄い紙をのせ、線を上から鉛筆やペンなどでなぞって写していく技法のこと。
子供のころ、好きな漫画の表紙やイラストに紙を重ね、なぞり描きをして遊んだ経験がある人もいるかもしれませんね。
トレースは、この遊びに近い技法といえます。
模写とは何が違うの?
絵の練習方法としてよく聞く技法に「模写」があります。
トレースも模写も「絵や作品を真似して描く」という点は共通していますが、意味は少し異なってきます。
元絵をなぞる「トレース」と、元絵を見て真似て描く「模写」
模写は元となるイラストや写真をよく観察し、似せて描く手法で、静物や人物をじっくりと観察して描いていく“デッサン”に少し似ています。
一方でトレースは、見本となるイラストをなぞるだけなので、模写とはだいぶ手順や大変さが違いますね。
トレースと模写の効果
【トレース】
見本をそのまま写せるトレースは、下にある絵をそのままなぞるため、ただ練習の枚数や回数を重ねるだけでは、画力が上がりづらくなっています。
しかし、綺麗な線を引く練習や、細かい部分の表現を描いて覚える練習としては効果的。
何も考えずに線をなぞるのではなく、元絵に使われている技術を吸収するつもりで、よく観察しながらトレースするといいでしょう。
【模写】
模写は元絵をじっくりと見て描くため、観察力や画力を高めるには効果的。
トレースより難易度が高いぶん、しっかりと力がつく絵の練習法といえますね。
ただし、イラスト初心者の方は、いきなり模写をするのは難しかったり、ハードルが高いと感じるかもしれません。
もし模写が難しいと感じたら、元になる絵や写真を簡単そうなものに変えたり、一度トレースをして感覚を掴んでから模写をするなど、練習方法を工夫してみてください。
模写の効果についてもっと知りたい方はこちら!
模写をして画力をつける方法については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
模写による画力アップに興味があるかたは、ぜひ読んでみてくださいね。
【イラスト上達に模写は効果があるの?オススメの練習方法は?】
トレースする方法を紹介
ここからは、実際にトレースする手順をご紹介していきます。
デジタルの場合
最近では、スキャナーを使って画像をパソコンに取り込み、イラストソフトを使って簡単にトレースできるようになっています。
フリーのイラストソフトでも十分にトレースできるので、ぜひ以下の手順で試してみてください。
1:元にする画像を選ぶ
まず、トレース元にするイラストや写真を選択します。
元にする画像にはどんなものでも問題ありませんが、ネットで見つけたイラストや写真をトレースして、自分の創作物として公開したり、取引先に納品したりすると、他者の著作権を侵害してしまう場合があります。
トレースした作品を公に公開したいのであれば、元にする画像は必ず自分で用意したイラスト・写真のみにしましょう。
2:不透明度を下げる
トレースに使う画像を選んだら、画像の不透明度を見づらくない程度まで下げます。
どの程度まで不透明度を下げるかは、個人の感覚や元画像の内容によって変わりますが、大体20%~50%程度まで下げると作業がしやすいでしょう。
3:元画像の上に新しいレイヤーを作る
不透明度を下げた元画像の上に、新しくレイヤーを作成し、元画像を参考にしながら、新しいレイヤー上に絵を描いていきます。
ときどき元画像を非表示にして、全体のバランスを確認しながら作業を進めていきましょう。
アナログの場合
デジタルでのイラスト制作が主流になる前は、アナログでのトレースが多く行われていました。
ここからは、アナログでのトレース方法についてご紹介します。
1:画像を印刷
まず、トレースしたいイラストや写真をプリントします。
この時、元のイラストや写真を拡大・縮小し、描きたいサイズに調整して印刷しましょう。
2:トレーシングペーパーを固定して絵を写す
資料の上にトレーシングペーパーをのせ、紙がズレないように上下2箇所や4辺を、マスキングテープやクリップなどで軽く留めます。
しっかり固定できているのを確認したら、下の資料をトレーシングペーパーに写し取っていきます。
トレーシングペーパーは画材店や文房具店、手芸店などで販売されているので、あらかじめ用意しておきましょう。
3:トレーシングペーパーの裏面を塗りつぶして線をなぞる
資料を写し取ったら、トレーシングペーパーの裏面を濃い鉛筆で塗りつぶしましょう。
このとき、裏面全体を塗りつぶすのではなく、絵を写し取った箇所の裏だけを塗りつぶすと作業がスムーズです。
裏面を塗りつぶしたトレーシングペーパーを、絵を写す白い紙にかぶせ、クリップやテープで固定します。
この状態で写し取った絵をボールペンや尖った鉛筆などでなぞると、裏に塗った鉛筆が下の紙に写り、トレース完了となります。
point:ライトボックスがあると便利!
紙を下から照らしてトレースしやすくする「ライトボックス」(トレース台)を使うと、コピー用紙のような薄手の紙が光で透けるようになります。
そのため、先程ご紹介した「一度トレーシングペーパーに写し、新しい紙に転写する」方法を使わなくても、直接元絵に紙をかぶせてなぞるだけで写し取れます。
頻繁にアナログで作業をするという方は、ライトボックスを購入しておいてもいいかもしれませんね。
では、トレースをする際の注意点について紹介していきます。
トレース時は著作権に注意!
トレースをしていると、知らないうちに他者の著作権を侵害してしまっている場合があります。
ここからは、トレース時に気をつけてほしい注意点についてご紹介します。
既存作品のトレースは著作権的にNG?
トレースは、元となるイラストや写真をなぞって写す技法。
他者の著作物をトレースして”自分の作品”として世に公開したり、仕事で依頼先に納品したりすれば、著作権違反となってしまいます。
とくにこのような場では、他者の作品をトレースするのはNGです。
しかし、他者の作品でも、個人的なイラストの練習に使用するといった、あくまで私的利用の範囲にとどめるのであれば、著作権面での問題はありません。
部分的なトレースなら問題ない?
「作品をまるごとトレースするのはNGでも、ポーズだけ・骨格だけならOKでは?」と思う方も、中にはいるかもしれません。
作品が著作権違反となるかどうかは、「元絵とどの程度似ているかどうか」です。
そのため、誰も気づかない程度のごく一部のトレースなら、問題にならない場合もあります。
しかし、トレースは元絵をなぞる技法。元絵とトレース作品を重ねれば、形や角度は完全に一致してしまいます。
著作権違反の可能性がゼロになるわけではないので、私的利用以外では、部分的でも他者の作品をトレースするのは控えたほうがいいでしょう。
まとめ
最後に、今回の内容について簡単にまとめました。
- 「トレース」とは、他のイラストや写真などをそっくりそのまま写す手法を指す
- 元絵を真似るという意味で「トレース」と「模写」は似ているが、模写は元絵を見ながら真似して描くことを指す
- トレースの方法はデジタル、アナログで異なり、やり直しが可能なデジタルの方が作業しやすい
- 他者の作品をトレースすると著作権違反となる場合があるため、使い方には十分に気をつける
トレースは使い方に注意が必要ですが、個人的に好きなイラストや風景写真などをトレースするのは自由です。
著作権違反に気をつけつつ、気になる作品は積極的に真似て、どんどん絵の技術を吸収してスキルアップしていってくださいね。