企業が漫画を制作し、販促・採用・サービス説明・出版・電子出版などに活用するケースが増える一方で、まず最初の段階でつまずくのが「権利」の取り扱いです。
特に漫画制作は、制作・出版・販売で工程が大きく区分されます。「どの工程でどの権利が発生するのか」「企業がどこまで利用できるのか」を理解していないと、信用問題や追加コストにつながるリスクがあります。そこで、本記事は、法人企業・個人事業主の担当者向けに、「漫画制作の依頼段階」「出版」「電子出版」「販売後」にわけて、押さえるべき権利と実務のポイントを解説します。
目次
漫画制作依頼時に押さえるべき権利一覧
企業が漫画を制作する際、ほとんどの場合が制作会社・個人クリエイターに依頼します。その際、最もトラブルが発生しやすいのが「権利」の扱いです。企業案件では、制作した漫画を商用利用・二次利用・多媒体展開するケースが一般的なため、制作開始前の取り決めが非常に重要になります。
ここでは、制作依頼段階で必ず押さえるべき権利をまとめましたので、参考にしてください。
① 著作権(著作財産権)を誰が保有するのか
漫画はクリエイティブ作品であるため、原則として「著作者=漫画家(クリエイター)」が著作権を持ちます。企業が制作費を支払っても、自動的に著作権が移るわけではありません。
そのため、契約の中で「著作権を譲渡できるのかどうか」について必ず打ち合わせを行い、明らかにしておきましょう。
しかし、漫画家によっては「譲渡不可」「利用許諾のみ」というケースも珍しくありません。企業側は「譲渡が必要なのか、許諾で十分なのか」を社内で事前に整理しておくとスムーズです。
② 著作者人格権は不行使にできるか
著作者人格権とは「作品の同一性を守る権利」であり、以下が含まれます。
- 氏名表示権(著作者の氏名を表示するかどうかを決定する権利)
- 同一性保持権(勝手に改変されないようにする権利)
- 公表権(著作物の公表するかどうか、どのように公表するかを決める権利)
企業が商用で漫画を利用する場合、変更が生じるケースも多くあるため、必ず著作者人格権不行使の同意を得ることが必要です。
③ 二次利用・二次展開の権利範囲
企業案件で最も揉めやすいのがこの部分です。著作権を譲渡すると、基本的には著作物の利用に関する権利を受け取った企業側が持つことになります。しかし 「何を含む譲渡なのか」「どこまで自由に使えるのか」 を明記しないと、トラブルになる可能性があります。
そのため、以下のように利用媒体や取り決めについて明文化し、条件を事前に決めておきましょう。
| 利用形態 | 取り決めポイント |
|---|---|
| Web掲載(HP・LP) | 期間、範囲、加工の可否 |
| SNS広告 | 二次利用料の有無 |
| 印刷物(チラシ、パンフ) | 枚数や用途 |
| デジタル広告 | バナー利用の範囲 |
| 動画化 | 漫画コマを冗長的に使用できるか |
| 展示会資料・営業資料 | 社内外利用の区分 |
④ キャラクターデザインの権利
漫画の魅力の中心となるのがキャラクターです。キャラクターの存在そのものは著作権法に適用されませんが、漫画に使用されている場合、著作権の保護対象となります。
そのため、以下のような内容について事前に決めておきましょう。
| 決めておくべき内容の例 |
|---|
| ・キャラクターデザインの著作権は誰が保有するか ・他プロジェクトへの再利用が可能か ・グッズ化や二次展開の権限はどちらに帰属するか など |
キャラクターは企業のIP(知的財産)として育つ場合も多いため、初期段階で契約内容をよく確認しましょう。
⑤ライセンス許諾範囲(商用/非商用)
企業案件では商用利用前提のため、以下の点を明文化しましょう。
| 決めておくべき内容の例 |
|---|
| 商用利用の範囲利用料金に商用ライセンスが含まれているか広告配信・有料配布は可能か海外展開は可能か など |
最近では「海外向けLPを作りたい」「英語・中国語版を作成したい」という企業も多いため、初期契約で国際的な利用についても想定しておくとトラブルを避けられます。
⑥肖像権・パブリシティ権
企業の代表者や社員をモデルにした漫画を出版する場合、実在人物の肖像権・パブリシティ権の確認は必須です。
特に企業案件では「社長キャラ」「社員ストーリー漫画」「実在のクライアント事例」など、人物を描く機会が非常に多いため、権利侵害が起きやすい領域です。
- 肖像権:本人の許可なく顔・姿・特徴を利用されない権利
- パブリシティ権:有名人の「名前・肖像・キャラクター」を商品価値として守る権利
特定の個人を漫画内に登場させる場合、必ず事前許諾を得るようにしましょう。具体的には、利用目的や利用範囲、利用期間、商業目的利用の可否、二次利用の範囲などを取り決めます。
⑦秘密保持契約(NDA)の締結
NDAとは、企業が外部クリエイターに対して情報を提供する際、「知り得た情報を第三者に漏らしたり、不正に利用しない」と約束するための契約です。
企業案件では、サービス情報・顧客データ・製品の仕様などの機密情報を扱うため、NDAの締結は必須です。以下のような内容について取り決めることが一般的です。
- 提供データの管理方法
- 外注・再委託の禁止
- 制作プロセスの開示範囲
- 公開前の情報漏洩防止
特に漫画制作では、キャラクター設定や製品ストーリーに企業の内部事情が深く関わることがあるため、制作開始前のNDA締結はリスクマネジメントの基本と言えます。
【関連記事】:企業の大事な公式キャラクターを守る!商標登録の全てを解説
漫画出版時に押さえるべき権利一覧

漫画制作が完了し、いざ「出版(紙媒体)」に進む際、制作時とは異なる種類の権利が新たに発生します。企業案件では、出版社・印刷会社・流通業者が関わるため、権利処理を曖昧にしたまま出版工程に入ると後からトラブルにつながりやすい段階です。
ここでは、紙の書籍出版の際に押さえるべき主な権利をまとめました。
①出版権
紙の書籍として「独占的に複製・頒布できる権利」を出版社に設定するものです。
企業が漫画を書籍化する場合、「出版権を出版社に設定するか」「自社で出版権を持つか」で運用が大きく変わります。
企業案件では、「自社ブランド漫画を冊子化し配布する」ケースが多いため、出版社を入れず出版権を持たない場合もあります。その場合は 出版権設定契約ではなく、印刷・配布の範囲を制作側と明確化することが重要です。
②複製権・印刷権
漫画を出版するには、著作権の一部である複製権を行使する必要があります。紙の冊子を印刷会社へ発注する際は、下記のような点を合意しておきましょう。
| 印刷時に確認すべき項目の例 |
|---|
| 何部まで印刷可能か(部数上限の設定)再印刷の可否(追加印刷の権利を誰が持つか)印刷データの保管ルール(印刷会社が保管する期間・削除タイミングなど)表紙デザインやタイトルの権利帰属 など |
企業案件では、印刷物を営業資料として配布することが多くあります。販売を伴わない無料配布の場合でも、「複製権の範囲に含まれる」 ことを理解しておくと安心です。
③商標権
商標権とは、商品・サービスを識別する「名称・ロゴ・デザイン」を独占的に使える権利です。登録しておくことで、第三者による類似名称の利用を防止でき、ブランド保護やトラブル防止につながります。
漫画をシリーズ展開する場合には、「タイトル・キャラクター名」を商標登録するケースも多くあります。企業広報漫画やブランドストーリーを描いた漫画は、広告物として長期運用されるため、商標権は確認しておきましょう。
商標で保護できる具体的な例をまとめました。
- シリーズ名・タイトル名
- キャラクターロゴ
- 企業イメージキャラクター
漫画のタイトルであっても、名称を製品・広告・サービス上で使用する場合、商標トラブルが起きる可能性があります。事前に確認しておきましょう。
漫画電子出版時に押さえるべき権利一覧
電子出版は、印刷出版と比べて流通経路や利用形態が多岐にわたり、権利トラブルが発生しやすい媒体です。企業が漫画を電子書籍やWeb配信で展開する際には、事前に権利関係を整理し、契約書に明記しておきましょう。
電子出版する場合、前章で解説した紙媒体の出版時に関連する権利に加えて、この章で解説する権利も取り決めておく必要があります。契約前の参考にしてください。
① 公衆送信権・送信可能化権
電子出版を行う際には、公衆送信権と送信可能化権について確認しましょう。
- 公衆送信権:インターネットを通じて作品を利用者に閲覧させる権利
- 送信可能化権:「いつでも送信できる状態」にするための権利
電子出版ではこの2つがセットで必要となるため、クリエイター側から企業へ利用許諾を得ているかどうかが非常に重要です。
②翻案権
翻案権は著作権の一部であり、著作物を原作として、形を変えたり、構成を再編集したりして別の形態へ加工する権利のことです。企業が自由に加工したい場合 契約で許諾を受ける(または翻案権を譲渡してもらう)必要があります。
以下のような行為はすべて翻案行為に該当するため、翻案権の譲渡や加工の許諾をどうするかは事前に決めておきましょう。
- スマホ・タブレットサイズへの変換
- 電子書籍ストアのフォーマット(EPUB等)への組み込み
- SNS広告素材としての切り出し
漫画販売後に押さえるべき権利一覧
漫画は「販売したら終わり」ではありません。出版後・電子出版後は、二次利用・翻案・海外展開・メディアミックスなどの追加利用が発生する可能性があるため、権利を管理しておく必要があります。
ここでは、漫画販売後に押さえておくべき権利についてまとめました。
①販売チャネルごとの利用許諾
販売ルートによって必要な権利・契約が異なります。
| 販売チャネル | 主に関わる権利 |
|---|---|
| 紙の書店 | 流通契約・販売委託契約 |
| 自社EC | 著作権・複製利用・広告利用 |
| Amazon / 楽天ブックス | デジタルデータの提供許諾 |
| 電子書籍ストア | 配信権・複製権・データ保持の許諾 |
企業制作の漫画は、出版社が存在しない場合が多いため、企業側が直接プラットフォームと直接契約を結ぶケースが増えています。
この場合、制作データの使用許諾範囲を制作会社と明確にしておくことが重要です。
②レビュー・口コミ利用と著作権
漫画を販売すると、SNS・ECサイト・電子書店などでレビュー・口コミが自然発生します。企業としてレビュー・口コミを活用したくなる場面は多いのですが、レビューにも著作権が発生するため、無断転載はできません。そのため、レビュー・口コミを安全に使用するには、以下のいずれかの方法が考えられます。
- レビュー投稿者本人から「転載許諾」を得る
- レビューを募集する際に「利用規約で明示」する
③海外展開時に確認すべき権利
漫画を販売した後、企業が 海外版の出版・翻訳・ローカライズ展開 を行う場合、追加で確認すべき権利が複数あります。「日本版を作ったのだから海外版も自由に作れる」と誤解しやすいポイントのため、担当者は注意すべき項目です。以下に、確認すべき主な権利についてまとめました。
- 翻訳権
- 翻案権
- 複製権
- 公衆送信権
- 商標管理
漫画制作時の権利に関連するよくあるQ&A

ここでは、「企業漫画を制作する際に押さえておくべき権利」について、よくある質問と回答をQ&A形式でまとめています。
Q.漫画の作者の権利はどこまでですか?
A.著作権はクリエイターに自動的に発生し、譲渡契約をしない限り企業に移りません。また、譲渡契約を行っても「著作者人格権」は放棄にならないため、別途「著作者人格権の行使」に関する取り決めが必要になります。
Q. 自社キャラクターを漫画化して商用利用したらどうなる?
A. 企業が自社で保有するキャラクターであれば問題ありません。ただし、漫画を制作したクリエイターの著作権は別に存在するため、二次利用や販売展開を行う場合は「著作権の譲渡」または「利用許諾」の契約が必要です。
Q.漫画のスクショを無断転載していいですか?
A.原則不可です。スクリーンショットも著作物の複製に当たるため、著作権者の許可が必要です。SNSで引用的に使う場合も、権利者のガイドラインに従うことが求められます。
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